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僕とフラッフィーの話を紹介します

我が家のワンワン物語り

クリスマスの3日前の日よう日の事。 最近ちっとも親父サッカーに 行っていなかったブラッドが、久々に汗を流しに行くと言い出した。 たまたま暇にしていた海渡が僕もついて行くと言い出し、それに習って 鷹も一緒に行くと言う。 私は後で少しだけ見に行く事にした。 フィールドにつくと、海渡が小さな小さなクマのぬいぐるみを抱いている?? よく見るとそれは真っ黒な仔犬だった。 誰かが飼い犬を連れてきたのだろうと 思っていると、 「お母さん、この子ね、捨て犬なんだ。 誰か飼ってくれる人を探してるんだよ」と 言う。 ぎくぅぅぅぅぅ〜〜〜〜〜っっっっ。 私には海渡からその次に発せられる 言葉が何なのかわかっていた。 「だめだめだめ、だめ!」

半年ほどまえ、18年飼っていた老犬、クロが忽然と姿を消した。 目もほとんど見えず、耳も聞こえず、いつも腹を上に向けて眠り続けていた。 そろそろお迎えがくるかなぁ…そんな風に覚悟はしていた。 海渡は小学生になった頃からクロの面倒を よく見るようになり、餌もウンコ拾いもお散歩も、気が向いた時だけだったけれど やってくれていた。 老犬クロは、鷹に尻尾や耳を引っ張られようが、追い掛け回されようが、まるで祖母が孫を見つめるように目を優しく細めて、嬉しそうにしていた。 子供達が幼い頃は、私も子育てに一生懸命でクロをちっともかまってやれなかったけれど、その子供達が大きくなってクロをかまってやるようになったのだ。 そんな矢先、 夜中、庭に繋がれていたクロが姿を消した。 田舎の我が家は山と谷に囲まれて、 雑草は大人の背丈ほどの高さもある。 随分探し回ったけれど、結局見つける 事は出来なかった。 「クロはきっとね、自分が死んでいる姿を海渡や鷹に見られたく なかったんだよ。 怖がって欲しくなかったんだよ。 元気で優しいクロの姿を覚えていて欲しかったんだね」 そう子供達に言って聞かせた。 4歳の鷹は、「クロどこに 行ったんだろうね?」ふと思い出してはそんな風に言っていた。 海渡はなかなか クロ探しをあきらめず、夜は布団にくるまって泣いていた。 それから先も3ケ月程、ふっと気付くと泣いているので、どうしたのかと聞くと、「クロを思い出してたの」と言う。 そんな時はいつも、以前おばぁちゃんから、クロそっくりだからと買ってもらった黒い犬のビニーベービーをしっかり胸に抱いていた

サッカーフィールドで海渡は黒い仔犬を胸に抱きながら、「クロを思い出すんだよ」と言う。 「お母さん、この犬僕たちがもらってあげないと、保健所に連れていかれちゃうんだよ!! 殺されちゃうんだよ!!」 

私とブラッドはこの仔犬にこれから少なくとも15年間でかかる、メンテとアクセサリーに費用代をざっと計算する。 「海ちゃん、犬はね飼うのにすごぉぉぉくお金がかかるの。 今うちではそんなお金ないから」 「お願い、ねぇ、お願い、今年はサンタさんからもお母さん達からもプレゼントは何もいらないから。 来年もいらない。 再来年もいらないから!」 「だめだめ」 「お願い、じゃ、僕働くよ。 材木やさんで木買って来て小屋を建てて、そこでレモネードを売って働くから!」 そんな押し問答がしばらく続いた。 鷹は横で「そうだよ、うん、そうだそうだ」とずっと相槌を打っている。

シベリアンハスキーとラブラドールレトリーバーとゴールデンレトリーバーのミックスだというその仔犬はクロの仔犬の頃に良く似ていた。 クロも保健所であと2日で永眠させられてしまうところを、わたしが救い出してきたのだった。 この仔犬も 我々が連れて帰らなければ、保健所で毒を食べさせられて死んでしまうのだ。 そう思うと、言葉では「だめ」を繰り返していても、心の底は揺れている。

「お母さん、お父さん、お願い、僕なんでもするよ。 毎日遊んでやる。 餌も毎日 言われなくてもあげるし、お散歩もするし、ウンチやおしっこも僕が全部始末するから。 この子が殺されちゃってもいいのぉぉ??」 目に涙をいっぱいにためて 訴えるゴジラの情熱に負けて、とうとう「わかった」と言ってしまった。

夜、ベッドの上でふとリアリティーに襲われる。 なななななななななな……なんて事をしてしまったんだぁぁぁぁぁ!!! 失敗だ、失敗! あの仔犬、今でこそ可愛いけれど、大型犬のミックスだ。こんな小さな我が家を、どでかい犬が我が物顔で、よだれをたらしながら歩き回る??? だいたいこれから15年どれくらいの費用がかかるの?? 子供達の大学資金すら貯めてないのに。 私は歯医者にいく費用だって無いっていうのに。 思えば思う程バカな事をした!!と後悔して眠れない。 明日誰かにもらってもらおう。きっとあんな可愛い子犬なら誰かが引き取ってくれるはずだ! 絶対駄目だ!だめだめだめだめ! 何とかしなければぁぁ! そんな風に考えながらやっと1,2時間うとうとした。

次の日、仕事中、私の頭は、海渡にどうやって説明しようか? どうやって犬を誰かに押し付けようか? そんな事で頭がいっぱいだった。 仕事を終えて家に帰る。 簡単だ。 「海渡はサッカーや剣道や学校で忙しい。 面倒を見るなんて無理だから」 そう言えばいいのだ。 決心して扉をあけると、目の前には幸せそうな子供達と仔犬の 姿。 鷹が笑っている。 仔犬はフラッフィー(ふわふわ)と名付けられて、海渡の腕の中でごろごろしている。 海渡が歩くと、後ろをトコトコとくっついて回る。 海渡の姿が見えなくなると、悲しそうに「あんあん」と吠える。 三人、否、二人と一匹は1日中ずっとくっつきっぱなしで過ごしたと言う。 まるで双子の兄弟か無二の親友のようだ。 まるで赤い糸ででもむすばれているみたいに…。

結局私は言い出せなかった。 とても引き離せるような雰囲気ではなかったのだ。 これも縁なのかもしれない、そう思った。 たまたま久しぶりに家族で行った サッカー。 家族を探していた仔犬のフラッフィーと、クロが死んでいつも泣いていた 海渡がめぐりあってしまった。 サンタクロースのいたずらだったのかもしれない。

クリスマス、海渡と鷹には約束どおり、サンタさんからのプレゼントはなかった。 その代わりサンタクロースは、フラッフィーの玩具を置いていってくれた。 「お母さん、今までで一番嬉しいプレゼントだよ」 海渡は言った。

メリークリスマス! 2002年・12月25日